新庄 智のショ−トスト−リ−

** このスト−リ−はフィクションです。登場人物・背景等はすべて架空のものです。


SCENE.4  −−  クラフトマン  −−

 

 大阪の行きつけのギタ−ショップに、よく一緒に飲みに行く仲のいい岡部さんとクラフトマンの堀内さんという、2人とも少しがんこな友人がいる。岡部さんは我々の音に対する要望には必ず100%答えてくれるスペシャリストだが、ビキナ−には少し無愛想なところがある。ビキナ−がややこしいことを言いだすとすぐに堀内さんに振るのだ。要するにかわすのがうまい。

一方、堀内さんはギタ−クラフトの腕は天下一品で手先は器用なのだが、きまじめでそうしたお客の無理難題をかわすのが下手である。

店に女子高生らしき女の子がギタ−を持ってきた。「あのう、ピックアップシングルからハンバッキングに変えたらいい音になるって聞いたんで変えて欲しいんですけど。」

例によって岡部さんは無愛想に「ギタ−はメ−カ−がちゃんと音のバランスを考えて作ってるから、そのままが一番ええ音やて。変えん方がええて。」「でもここに来たらカスタムギタ−を作ってくれるって聞いたんですけど?」説得には応じないようだ。すると...「堀ちゃん!ピックアップ変えたいねんて!話聞いたあげて!!」やっぱり堀内さんに振った。堀内さんは、やりかけのギタ−を置いて渋々こちらにやって来た。「このギタ−にハンバッキングはつかへんわ。」「なんで?」「あのね、ここの幅が.....」説明しても分かりそうにない女の子に丁寧に教える。「シングルでもこっちのに変えるとPOWER UPするよ。......」閉店間際まで堀内さんは女の子にいろんなギタ−を出して音を説明させられた。結局女の子は別のシングルピックアップに交換する事に決めて喜んで帰っていった。

「ずるいわ岡部さん。!!すぐにこっちに振るんやから。」「自分も適当に切り上げればいいのに。素人に音の説明してもしゃあないやろ。無駄なお金使わすだけや。だいいち、あの子ギタ−弾けんのか?」「そんなこと言うたって.....」いつもこの二人はこんな調子。

一方、女の子はピックアップ交換後もいろんな事を親切に教えてくれる堀内さんを頼ってしょっちゅう店に来るようになったらしい。その度に堀内さんは閉店近くまで懲りずに説明をした。

数ヶ月後、また女の子が店に来た。その日はどうしても仕上げなくてはいけないギタ−があって堀内さんが忙しそうにしていたので、見かねて岡部さんが「ごめん。堀内は今手が放せないんや。今日はかんべんしてやってえな。」「そうですか...。私、昨日ギタコンで優勝してデビュ−が決まったんです。堀内さんのおかげです。だから早く報告したくて...。」「えっ!!....。 堀ちゃん!お客さん!話聞いたあげて!!....。」

 

−−− 「クラフトマン」終わり 2000.5. 7 新庄 智 −−−

ピックアップ・・・・・ギタ−に取付けられたマイクのこと シングル・ハンバッキング・・・・・ピックアップの種類。


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